【創作】始まりの朝
ある晴れた早朝の出来事であった。
いつもよりもはやくに家を出て、一本早い電車に乗るために駅へと歩いていた私。
いつもの見慣れた風景。近所で飼っているヤギのマサオ、ユキ、犬の散歩をしている知らないおじさん、至って変わらない風景であった。
ふと気付くと、前方に自転車に乗った女の人が見えた。
「朝早くから、あの人も仕事かな?」
そう思いながらちょっと目を奪われていると、とんでもない違和感に気付くことになった。
その女の人は、ちゃんと自転車に乗っている。しかしとてつもなく遅いのだ。
私はなにか夢でも見ているかのような感覚に陥り、その果てしなくゆっくりな自転車の女の人を、無意識にボーっと凝視してしまった。
見た感じは小奇麗な女の人で、どこにでもいそうな雰囲気だった。
ゆっくりではあるけれど、近づいているのはわかった。近づくにつれ、また新たな違和感が生まれた。
よくみると後輪のタイヤがほとんどなくなっていた。それなのに彼女はこぎ続けていた。
ギコギコ...ギコギコ...と、耳ざわりな音を立てながら。
そしてもっとびっくりしたのは、ペダルを回すにもだいぶ重いだろうに、なぜかその女は笑顔を浮かべ、顔だけ見ると心から楽しそうに乗っていた。
「この人、やばい!!」
そう思った瞬間、その場にいるのはまずいと思って逃げようと思った。
しかしなぜか気になり、少し離れた後でゆっくり後ろを振り返るとその女もこちらを見つめてニターーーっと笑ったのだ。
たまらずわたしは一目散に駅まで走った。
走って走って、息を切らして...ようやく駅に着いたのだが、駅について安心しているときに女子高生の会話が耳に入った。
「ねえユミ、最近変な夢を見るの。変な女に追いかけられる夢なんだけど...」
「え、それマジ?わたしも見るんだよね~~なんかヤバくな~い?」
まさかとは思ったが、実はわたしも数日前までそんな夢を見ていた。
そして今朝の出来事。追いかけられはしなかったが、現実に遭遇してしまったのだ。
それにしても、ただの偶然だろうとその時はあまり気にもせず、会社に向かうのであった。
続く
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2015.12.08 00:21
2015.12.07 23:12